cinema-yuka

うちのDigaが勝手に撮りためた映画、消化試合中。

主人公は僕だった

主人公は僕だった(2006)

監督:マークフォースター

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 歯磨きの回数やネクタイの結び方、バス停までの歩数まできっかり決まっている、毎日ひたすら数字に追われるようにきっちり生きている国税庁職員のハロルド・クリップ。ある日彼の頭の中にナレーションのような女性の声が響くようになり、彼の無味乾燥に安定した日々が綻びはじめ…。

 

題名は知っていたけど初見。意外にもとっても面白かった。悲劇のような喜劇のような絶妙なバランス感。映画の主人公ハロルドが、実は映画の中の小説の主人公で、というメタフィクションな話はよくある設定だけど、小説の書き手である作家(カレン・アイフル)の世界とハロルドの世界が同じ世界というのがユニーク。

 

最初はアスペルガーか?といった風情の全然かっこよくない朴念仁のハロルドが、死を避けるために、やがては避けられない運命にあらがいながら、よく生きることに挑むうちに、どんどん変わっていく。

ややご都合主義?人はそう変われるかな?という節もあるけど、どんどん味のある男になっていくのだ。

 

いつも最後は登場人物を殺す悲劇作家のカレン・アイフルエマ・トンプソン)は、黒い服を着て咳き込みながら煙草を吸い死神みたいな印象。もちろん彼女は自分が書いている小説の主人公が実在するなんて思ってもいない。

 

ハロルドのアドバイザーを務める文学理論のヒルバート教授(ダスティン・ホフマン)のキャラクターが良かった。

最初ハロルドをただの頭のいかれた男だと思って追い払うが、『知る由もなかった』という表現に食いつき(笑)声の主を探し死の運命を避ける手伝いをする。

 

セリフがいい。

カルヴィーノが言うように、全ての物は2つの顔を持っている。生命の継続と死の必然性ら悲劇なら君は死に、喜劇なら結婚する。」

 

ハロルドを助けてくれていたはずなのに、小説の結末に感動して、

「人は誰でも死ぬ。これほど抒情的で美しく意味のある死はないぞ!主人公は死ぬけれど、作品は永遠に生き残る。」

あれ~?見捨てるんだ!!!さすが文学理論の先生!芸術至上主義!!!

主人公が死にそうなんではらはしてるはずだけれど、思わず笑ってしまう。

 

朴訥なハロルドが恋に落ちるアナーキストなパン屋の彼女のアナ・パスカルマギー・ギレンホール)もいい。気風が良くて直情的であたたかい。マギー・ギレンホール、美人ではないけど不思議な魅力のある女優さん。見たことあると思ったらパリ・ジュテームに出ていたらしい。どの話だったかな。

 

ガラガラとハロルドの日常が崩れていくのを象徴するようにハロルドの住むビルがいきなり壊されたり、作家が世界を俯瞰しながら飛び降りる幻想を視るシーンも好き。

 

役者もいいし、映像も音楽もいい。最後まで小気味よくよく魅せてくれる映画だった。